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い説明会を受けてみることにしました」
東京で行われた説明会、筆記試験、一次面接を次々にクリア。社長面接を現地で迎えることになってCさんは妻のD子さんに初めて打ち明けた。しかし、D子さんの反発は予想をはるかに上回るものだった。
「君の実家も近いし、子供の面倒も見てもらえる。移り住む条件としては悪くないと思うんだけど」と切り出したCさんは、集中放火をあびる。
「安直に考えないで。子どもはすぐに成長し、手がかからなくなる。むしろ、その後の事のほうが大事。この子だって当然大学に入れたい。塾をはじめ、教育環境をどう考えているの」「子どもばかりじゃない。私の交友関係は?学生時代からの友だちのほとんどが首都圏に住んでいるのを知っているでしょ」
「大企業の歯車が嫌だなんて、ただの甘えじゃないの。そんな根性の人が地方で通用すると思う?」
「第一、こんな大切な問題を今まで黙っていたのがなにより許せない」
声も出ないCさん。それでも、せっかく縁あって呼ばれたのだからと説得。社長面接には妻のD子さんも同伴で出向くことになった。「自分の目で確かめて判断したい」という彼女の意向もあってだ。
面接の印象は夫婦ともに良かったという。しかし、帰りの新幹線に乗ってから降りるまで、二人は激論を交わし続けた。周囲の乗客が訝しげに見る。「面接の印象がとても良く、なんとしてでもここで働きたいと強く思うようになったのです。だから、必死でした」とCさんは振り返る。
結局、D子さんは承諾。Cさん一家は、晴れて新天地にUターン、今は元気に暮らしている。

 

Uターンはなくてはならないもの

 

情報誌の編集・取材を通じてUターンを見つづけ3年半たった。ブームは完全に去り、浮ついた話はない。昨今のUターン者は皆、研究熱心で用意も周到だ。しかし、どんなに研究しても情報を集めても、都会で働くサラリーマン、OLにとってUターンの決断の壁は厚く、高い。とりわけ家庭を持ったサラリーマンは望みながらも「行けば、一人で」の妻の一言に夢打ち砕かれるのが現状のようだ。別に妻を悪役にしようというのではない。むしろ、彼女たちの発言は、わが国の構造矛盾を鋭く突いている。一極集中は経済だけでなく、ライフスタイルまでをも均一化した。出身地がどこであれ、都市圏に集中する大学、短大、専門学校で学生時代を送り、そのまま都市圏で就職、家庭を持つ。そうするのが当たり前のように。その路線から少しでもはずれると、生活のあらゆる側面で不効率なことが起こってくるのだ。妻たちは、感覚的にそれを感じとっているのだ。
さすがにUターンから「都落ち」のイメージは払拭された。「転職求職者200万人超す目立つ若年層」(日経、97年2月8日付)という新聞記事も目にする。若い世代から転職・独立を含めた流動化は本格化しよう。そして、いままで頑として動かなかった文系サラリーマン家庭も、例外

 

 

 

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